おはようヘミングウェイ

想う 観入る 書き表す そして存在が生まれてくる

羽田空港で珈琲を 帝都歩キ愛デス 1

もろもろの用があって上京する。九州から空路、帝都の空の玄関口を目指す。「進路左側に富士山が見えます」。パイロットのアナウンスを受けて、窓を覗く。富士の高嶺はどこかいな? 雲しか見えないな。そう思っていると白い雲海からひと際抜きんでた黒いシルエットが浮かび上がっている。逆光のために影絵となっているが、その姿、形はまさに富士のお山だ。アテンダントが特選という触れ込みで手渡してくれたトマトジュースを飲みながら、富士のお山を高見の見物する。機内で無料のWIFIが使えるとあって、右も左も斜め前の席もパソコン、タブレットスマホの画面でなにやら作業をしていたり、ゲームに興じている。つくづく世の中、便利になっているのと、IT端末の活用環境の進化の速さに改めて驚かされる。いや、はや、である。

飛行機は滑走路に円滑にタッチダウンして羽田に到着。都内での待ち合わせ時間に余裕があったので、時間調整も含めて空港内でしばし休憩することに。インフォメーションコーナーの女性にスターバックスの店を尋ね、案内通りのフロアーへ向かう。羽田空港スターバックスは搭乗前の保安検査ゲートが幾つも並ぶフロアーを上階から一望できるカウンターがある。そこで旅に向かう人々を借景にして珈琲を飲もうかと思っていた。希望は叶わず、カウンター席は満員御礼である。おしゃべりをしているカップルや、パソコンでなにやら作業をしているキャリアウーマン風の若い女性などが、どんと席を占めて、入り込む余地なし。たとえ待ってても何時になったら空くのか見当もつかない状態だった。見渡せば、周りの椅子席もおしゃべりする旅客らでいっぱいだ。

ひとまず、ドリップ珈琲のスモールとアップルパイを注文する。「アップルパイは温めますか?」。笑顔が可愛い女性スタッフが尋ねる。「そうだなあ~」。ひと呼吸置きながら、彼女の容貌をしっかりと見据え、いわゆるアイコンタクトを決めて「それじゃ、温めてもらおうかな」。さらにひと言を追加する。「空いてる席を探してもらえるかな」。温かいアップルパイが仕上がる合間に、彼女はカウンターの中から出てきて、ひしゃげた7角形か、8角形か、9角形の店内を巡り歩き、わたしの視線から見えない空間へ向かって歩き、姿を消した。しばらくして戻って来て「入り口にあるお席を用意させていただきました」。わたしは渡されたドリップ珈琲と温められたアップルパイをトレ―に載せて入り口へ向かう。

彼女が言った通り、店の入り口に丸テーブルがしつらえてあり、「RESERVED ご予約席」のカードが立てられていた。背後にはスターバックスの緑色のロゴマークがわたしを見下ろしている。トレ―をテーブルの上に置き、椅子に座ると、眼の前にある店舗の入り口と対面する形となった。SHOSAIKAN。文具の専門店だ。とりわけ内外のヴィンテージものや限定スペシャルものなどの万年筆を並べているので有名なお店でもある。

 

 しゃれたディスプレイをした書斎館の入り口を眼にしながら珈琲を味わうなんて、文具フェチ冥利に尽きる最高の予約席だ。入り口の澄んだ青色の光に誘われるように老若男女が店内に入っていく。テーブル席から店内が透けて見える。おしゃれで何やら愉しそうな文具がたくさんあるような雰囲気がにじみ出ている。じっくりと鞄を手に取って見入る高齢者。若い女性たちも小物類を手にして愉しそうだ。地方の空港には焼酎や蒲鉾の店はあっても、こんなおしゃれな文具店はないなあ。いかにも帝都の空港ならではの光景でもある。出張や旅行の客らで賑わう羽田空港の一角で、わたしは実にまったりとした時間を過ごした。こんな、ちょっとした未知との遭遇があるから旅は止められないね。珈琲も飲んだ。アップルパイも食べた。いざ、書斎館へ。