行きつけの銀行の窓口の女性たちの容貌はすべからく個性的だ。
眼鏡を掛けた小鳩くるみがいれば、原田夏希風やフランケンシュタイン然がいる。
大きい店舗だと同じ窓口嬢に当たる確率は少なくなるが、小さな店舗だと先だってと同じ顔立ちに当たる。
猫を思わせる大きな眼とストレートの黒髪の窓口嬢とは、いつも事務的な会話だけで済んでいた。「これお願いします」「はい」で始まり、名前を呼ばれて「どうぞ」「はい、ありがとう」の4つのフレーズがカウンター越しに交わされるだけだった。
今日は違った。「どうぞ」「はい、ありがとう」では終わらなかった。鞄をカウンターに載せた拍子に内側にあったプラスチックの置物に当たった。黒髪嬢の目の前に置物が転がった。「あっ」。不意の出来事で視線が合った。立ち居のわたし、座位のお嬢の間に3秒ほど時間が割り込んだ。潜在意識が言葉になった。
「だれかに似ているよね。えっーと、くりやま……何だっけ。栗山千明だったかな」
千明嬢が軽くうなずいた。直後、顔色がみるみる赤くなっていった。頬っぺた、両目の周り、おでこが熱燗を飲んだみたいに桜色だ。隣の席の女性版アンパンマンが「また言われちゃったわね」という表情でちらりちらりと後輩に眼をやる。
事務的な表情がすっかり崩れた千明嬢はわたしを直視できず手元に視線を落としている。純情、はにかみ、照れが伏目の顔立ちから香り立つ。初々しさにいい気分になり店舗を出る。秋の青空が広がっている。ちょっと早いけれど胸の内は小春日和だ。