おはようヘミングウェイ

想う 観入る 書き表す そして存在が生まれてくる

へミングウェイ@モンブラン

デルタのドルチェヴィータ・ミディアムの試し書きをしながら、万年筆屋のオーナーと雑談をした。ペン先はM(ミディアム)で滑らかな書き味がここちよい。横に流しても、縦に下っても期待にこたえてくれる。

「これ、いいねえ」。こう言って顔を上げた正面の陳列棚にあったモンブランのマイスターシュティックの隊列と目が合った。149を所望する。再び試し書きをする。インク瓶にペン先をつけて紙の上を縦横無尽に走らせる。滑らかさに難があり、漢字の画数の一部がかすれたりする。書きごごちは満足とは言えず調整が要りそうだ。

オーナーとの雑談の中でモンブランへミングウェイの話題になった。1992年、モンブランが作家シリーズ第一弾の万年筆として出した。当時8万円の定価だった。今日ではコレクター垂涎の逸品としてプレミアがついて高額になっているという。ネットでオレンジと黒のボディの紹介写真やブログで見聞するが、現物を拝んだことがない「幻の万年筆」。ブログでは誰もが胸を思いっきり張ったような自慢話ばかり。書くことより、持っていることでいくつもの悦びをもたらしてくれるらしい。

「うちでも発売当時、30本を確保しましたが、すぐに完売でしたねえ」。オーナーは売れっ子万年筆に感慨深げ。在京の文具店のホームページに写真付きで販売しているのを見つけた。定価は発売当時のまま。こんなのあり得ない。模造品か。いぶかしがりながらメールで問い合わせた。そうか、定価と販売価格は違うか。思案して半日後に返信があった。「申し訳ございませんが、現在は完売いたしました。現在はプレミアムがついて40万以上しています。また、お気軽にお問い合わせください」。そうだろう。当然だ。確かに。

ここならあるかもしれない。そう思って東京・南青山の「書斎館」に電話を入れる。女性が出た。落ち着いた声だ。

「あー、1本ありましたが、つい先だって売れてしまいました」
「えっ、売ってたんですか。いつですか。売れたのは」
「1カ月ほど前でしたか」
「未使用だったのですか」
「一度使った品でした。ちゃんと箱もついてました」
「中古だったんですね」
「ええ。でも、とてもきれいな物でした。へミングウェイはなかなか市場には出ないですね。ネットのオークションでは時たまあるようですが」
「いくらで売ってたのですか」
「40万円近くだったと思います」
「……」
「これから入る予定は」
「今のところございません」

書斎館は2001年の開店から2年間で8本のモンブランへミングウェイを販売したそうだ。いずれも海外からの仕入れという。

鉛筆、ボールペン、ワープロ(パソコン)は日ごろ使うのに、万年筆で書く機会はほとんどない。賀状の添え書きと、後はなんだっけという状態だ。「万年筆はファッションだ」の販売路線から相次いで出てくる諸々の高級万年筆。切手マニアと同じく、万年筆コレクターは悦びと心労が絶えないだろう。文房具フリークだけど、なぜか万年筆には触手が動かない。ちょっとへミングウェイに引かれてる。これぐらいがちょうどいい。